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2024/9/19
AMR2024年9月15日号に「(ベトナム)『トー・ラム体制』確立に向けた閣僚人事_副首相3人、法相、天然資源・環境相に新任者」を掲載しました。
2024/9/5
AMR2024年9月1日号に「(インドネシア)10月20日の新政権発足を睨んだ副大臣人事_プラボウォ次期大統領の甥や側近ら3人を起用:プロフィール」を掲載しました。
2024/8/21
AMR2024年8月1日・15日合併号に「(インドネシア)ジョコウィ大統領のパワフルな親族たち_次期副大統領・政党党首・地方首長・憲法裁判事・国営企業幹部」を掲載しました。
2024/7/19
AMR2024年7月15日号に「(ベトナム)現行の共産党政治局員15人の顔ぶれ_5月に4人が新たに政治局入り:プロフィール」を掲載しました。
2024/7/3
AMR2024年7月1日号に「(シンガポール)ローレンス・ウォン新首相就任_新内閣の異動閣僚と新任国務相・政務官:プロフィール(下)」を掲載しました。

最新人事情報

《インドネシア》

国家テロ対策庁(BNPT)長官にリッコ警察中将

2023年4月5日

 インドネシアのジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領は2023年4月3日付で「国家テロ対策庁(BNPT)」の第6代長官に前国家警察教育・訓練所(Lemdiklat)所長のリッコ・アメルザ・ダニル警察中将を任命し、同日中に就任宣誓式を行った。2020年5月から第5代長官を務めたボイ・ラフリ・アマル警察中将(Comr. Gen. Boy Rafli Amar)が定年退役することに伴う人事。
 リッコBNPT新長官は宣誓式後の記者会見で、在任中の対テロ戦略の柱として、(1)テロ抑止に向けた国家準備態勢の強化、(2)(摘発作戦など)過激派対策の執行、(3)脱過激化(deradicalization)政策の実施という3点を挙げた。同戦略の遂行のためには、政府関連機関と海外のカウンターパート機関との連携・協力関係を強化することの重要性も指摘した。
 一方で、リッコ氏は、テロ組織・分子に対する掃討・摘発などの法執行活動については「あくまで最後の手段」だとして、BNPTとしては、テロリズムの危険性に関する教育・啓蒙活動やその温床となる社会的な要因の解決・除去に重点を置いていくことを強調した。

大統領直属の治安機関

 「国家テロ対策庁(BNPT)」(インドネシア語はBadan Nasional Penanggulangan Terorisme)はテロの脅威から国家と国民を守る大統領直属のテロ対策機関で、その長官は大統領の前で就任宣誓式を行い、閣僚と同等の地位と待遇が与えられている。リッコ氏を含む歴代長官には現役の警察将官(1人を除いて警察中将)が就任してきた。
因みに、2010年に「テロ対策調整事務局(DKPT)」が格上げして創設されたBNPTは、テロ防止戦略を策定・遂行する行政機関であり、傘下にテロ組織の摘発などの法執行活動を行う武装部隊は擁していない。あくまでも、テロ対策で国家警察を含む各省庁の関連部門を統括・調整する業務を担い、諸外国のテロ対策機関や情報機関のカウンターパートとしての役割も担っている。
 また、BNPTは、その主要な業務として、「反テロ法」違反罪の受刑者などに対する「脱過激化プログラム」の実施機関となっており、元受刑者の社会復帰への支援とともに監視も行っている。

BNPTと国家警察の関係

 一方、BNPTが政策策定の行政機関であるのに対し、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」系の地元過激派諸組織・分子など「反テロ法」に抵触するテロ容疑者に対する捜査や急襲・摘発作戦などを行う実働部隊が、国家警察本部に直属する「対テロ特別分遣隊88」、略称「デンスス(Densus)88)」だ。
 このBNPTとDensus 88の関係にも関連するが、歴代の国家警察長官(唯一の警察大将の階級保持者)には部下の警察将官をBNPT長官として「出向」させる形になるため、あたかもBNPTを国家警察の「外郭機関」でもあるかのようにみなす傾向があった。
 しかし、政府機関の組織上は、BNPT長官としてのリッコ氏は現役の警察中将であっても、リスティヨ・シギット・プラボウォ現国家警察長官(警察大将:Pol. Gen. Listyo Sigit Prabowo)の指揮下にはなく、両者とも相互に独立した治安機関の閣僚待遇の長として対等の立場にある。
そのために、リッコ新長官は、BNPTの業務を強化・刷新し、政府のテロ対策中枢機関としての威信と実力を示す必要性に迫られているといえる。

〔人物データ・ファイル〕
■国家テロ対策庁(BNPT)長官 Head of the National Counterterrorism Agency
 リッコ・アメルザ・ダニル警察中将(教授・博士) Comr. Gen. Prof. Dr. Rycko Amelza Dahniel

 4月3日付で現職(国家テロ対策庁長官)に就任。前国家警察教育・訓練所(Lemdiklat)所長。
*警察士官学校を首席で卒業し、インドネシア大学(UI)から行政修士号と政治学博士号を取得、警察科学大学(STIK-PTIK)から教授の称号を授与された学究肌の警察官僚。それもあり、34年間の警察官僚としての経歴には、市警察本部長や州警察本部長など地方警察の指揮官とともに、警察士官学校長や国家警察教育・訓練所(Lemdiklat)所長などの教育・訓練部門の要職も歴任してきた。
*国家警察刑事局(Bareskrim)に所属していた2005年11月9日には、東ジャワ州バトゥ市内で、東南アジアの広域テロ組織「ジェマー・イスラミア(JI)」のマレーシア人幹部(爆発物製造専門家)、アザハリ・フシン博士(Dr. Azahari Husin)に対する急襲作戦(同博士は射殺、部下2人自爆)を実施した同局チームの一員だった。同(リッコ)氏はテロ容疑者に対する現場での法執行活動の経験も持っている。
▼データ:【年齢】56歳(就任時:1966年8月14日生まれ)【生地】西ジャワ州ボゴール【階級】警察中将(現役)【学歴】1988年(スマラン)警察士官学校卒(首席)、2001年インドネシア大学(UI)行政修士、08年同大学政治学博士、20年8月警察科学大学(STIK-PTIK)教授称号授与【経歴】警察将校:1989年ジャカルタ首都圏警察(Polda Metro Jaya)中央ジャカルタ警察本部強行班班長を最初に、1992年からは警察士官学校教官、中央・南ジャカルタ各警察本部の刑事課幹部などを歴任。2005年国家警察刑事局(Bareskrim)幹部、西ジャワ州スカブミ市警察本部長などを経て、08年北ジャカルタ警察本部長。09年(ユドヨノ)大統領補佐官に就任。12年警察科学大学教育協力所長。13年西ジャワ州警察副本部長。2014年警察科学大学教育・訓練所長。16年北スマトラ州警察本部長。17年警察士官学校長。19年4月中ジャワ州警察本部長。20年5月国家警察情報・警備局(Baintelkam)局長。21年2月18日国家警察教育・訓練所(Lemdiklat)所長。23年4月3日国家テロ対策庁(BNPT)長官(-現職)【家族】ユダニングルム(Yudaningrum)夫人との間に1男2女。

〔参考データ・ファイル〕
■国家警察対テロ特別分遣隊(Densus)88隊長 Head of the Counterterrorism Special Detachment 88
 マルティヌス・フコム警察少将 Insp. Gen. Marthinus Hukom

 国家警察本部直属の対テロ特殊部隊で1,300人の隊員を要する「特別分遣隊(Densus)88」(インドネシア語はDetasemen Khusus 88 Antiteror)の隊長。2020年5月1日付でDensus 88副隊長から昇格した。
*2003年に創設されたDensus 88で捜査官や情報班長などテロリスト摘発の前線を経験してきた対テロの専門家。国内のイスラム過激派諸組織やテロ分子から最も恐れられている警察高官だといえる。
*「ジェマー・イスラミア(JI)」の2人のマレーシア人幹部、アザハリ・フシン博士とノルディン・モハマド・トップ(Noordin Mohammad Top)の無力化、およびインドネシア人幹部のアリ・イムロン(Ali Imron)の逮捕で中心的な役割を果たした。
▼データ:【年齢】54歳(就任時:1969年1月30日生まれ)【生地】マルク州中マルク県ヌサラウト【宗教】キリスト教【学歴】1991年警察士官学校卒、2001年警察科学大学(STIK-PTIK)卒、08年(フィリピン)インテリジェンス分析課程修了、インドネシア大学(UI)修士(インテリジェンス戦略研究)、UI博士候補(就任時:テロリズム研究)【経歴】警察将校:1991年警察少尉に任官後、国家警察の各部門の要職を歴任。2001年ジャカルタ首都圏警察(Polda Metro Jaya)刑事部勤務を経て、02年Densus 88情報分析官(-15年)。10年Densus 88情報部長。2015年Densus 88副隊長。2017年国家テロ対策庁(BNPT)に出向し法執行局長。18年Densus 88副隊長に復帰。20年5月1日同隊長に昇格(-現職)。

(アジア・リンケージ 勝田 悟)


《ミャンマー》

軍事政権が前政権の和平交渉中枢機関NRPCを廃止
―今後は国軍の「和平交渉委員会」が唯一の交渉機関に―

2021年2月10日

 2月1日の軍事クーデターで成立した、ミャンマー国軍(ミャンマー語で「タッマドー」)主導の暫定政権(軍事政権)は8日までに、「国民民主連盟(NLD)」主導の前政権下で少数民族武装諸組織(EAO)との和平交渉における政府の中枢機関だった、大統領府所管の「国家和解・平和センター(NRPC:National Reconciliation and Peace Centre)」を解散させるとともに、その主要な文民メンバーを逮捕した。
 国軍はNRPC解散についてすでに各EAOに通告し、今後の和平交渉は、国軍司令部指揮下でヤー・ピェー中将(Lt-Gen Yar Pyae)が委員長を務める「和平交渉委員会(PTC:Peace Talks Committee)」のみがカウンターパートとなって継続される、と交渉プロセスの転換を一方的に受け入れるように要求してきたという。

ヤー・ピェーPTC委員長

文民抜きの和平交渉に

 NRPCはアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相(軍政当局の勾留下)がセンター長を務め、NRPCの文民代表・専門家や国軍代表などで構成される「連邦和平委員会(UPC)」がEAOとの実務的な交渉に当たってきた。このシステムでは、政府側の和平政策はNRPCが策定し、国軍の意見はあくまでもUPCの委員である国軍代表を通じて和平交渉に反映される仕組みになっていた。NRPCが解散させられPTCがその代替機関となったことで、今後はEAOとの交渉は基本的に文民メンバーが排除され、現役国軍高官のみが担当することになった。
 EAOの中で中国との国境地帯に拠点を置く4つの組織の連合体「北部同盟(NA)」(注1)の和平交渉部門「和平対話創成グループ(PCG:Peace-Talk Creation Group)」のラマイ・グム・ジャ(U Lamai Gum Ja)委員は8日、地元メディアの取材に対して、「国軍からNRPCは廃止された。今後はPTCとのみ交渉するようにと言われた」として、「NAとしては現在(クーデター後)の状況に対して明確なスタンスを決めかねている」と語った。
 NAの4組織はクーデター発生以前に国軍代表との直接の交渉を今月(2月)中にも行うことで合意していた。しかし、ラマイ・グム・ジャ氏は、この交渉はクーデターの発生で「自動的にキャンセルされた」との見方を示した。NAがPTCと交渉していくことになるのかどうかについては「断言できない」という。4組織は政府との「全国規模停戦協定(NCA)」に調印しておらず、国軍はこれら「未調印派」のEAOと(政府の頭越しに)和平交渉する道を模索してきた。

「軍事政権の承認に繋がる」との警告も

 一方、NCAに調印しているEAO(「調印派」)10組織の一つである、パオ族系「パオ民族解放機構(PNLO)」のクン・オッカー議長(PNLO大佐:Col Khun Okkar)は8日、PTCと和平交渉を行い何らかの政治的な事項で合意すれば、「EAOがクーデターで成立した軍事政権を承認したことになる」として、EAOはPTCとの交渉に慎重であるべきだ、との見解を表明した。

「21世紀のパンロン会議」は崩壊

 「調印派」EAOは、スー・チー国家顧問の肝いりで進められてきた国民的な和平会議「21世紀のパンロン会議」を通じて、真正の連邦制の確立や各少数民族の自治権拡大などを要求してきた。しかし、NRPCが解散させられたことは、同会議を通じた和平プロセス自体が崩壊したことを意味する。軍事政権の成立で長年にわたった政府とEAOの和平交渉が振り出しに戻る可能性さえ危惧される状況といえる。
 また、和平問題に詳しい内外の専門家らからは、国軍は歴史的に、EAOを掃討して中央政府に権限を集約する体制の確立を目指してきたのが本音であり、国軍からは「真正の連邦制の確立」などという理念が生まれてくるはずがない、との厳しい指摘も出ている。
 おそらく、国軍は「調印派」EAOに対しては、「(各EAO傘下の武装部隊を)国軍司令部の指揮下に入れるように」との実質的な「帰順」を要求してくる可能性も考えられ、「未調印派」EAOには軍事(掃討)作戦を主体にしながら、「文民など入れないで『軍人』同士で話し合おう」という硬軟織り交ぜた新しい戦略で臨んでくることも想定される。
 「調印派」か「未調印派」かを問わず、EAOは今後の新軍事政権への対応に苦慮するだろう。EAO間で軍事政権下での和平プロセスを巡り路線対立が起こる可能性も考えられる。今後の少数民族武装勢力の動向を注視すべきだ。

(注1)北部同盟(NA:Northern Alliance)
 NAの構成組織は、EAOの中では兵力で2番目に大きいカチン族系の「カチン独立機構(KIO)」、パラウン族系の「タアン民族解放軍(TNLA)」、コーカン族系の「ミャンマー民族民主同盟軍(MNNDA)」、それにラカイン族(仏教徒)系の「アラカン軍(AA)」の4組織で構成されている。4組織とも中国雲南省との国境地帯を拠点にしており、中国人民解放軍の工作部門の支援で武器弾薬を調達していることは周知の事実となっている(これらの「未調印派」の兵力は「調印派」10組織の総兵力よりもはるかに大きい)。


《ミャンマー》

国軍の「和平交渉委員会(PTC)」再編:和平交渉の中枢機関に
―ヤー・ピェー委員長以下、7委員で構成:少数民族側の出方に注視―

2021年2月3日

 ミャンマー国軍(ミャンマー語で「タッマドー」)司令部は2月1日、ミン・アウン・フライン国軍司令官が1年間の非常事態を宣言し、実権を掌握(事実上のクーデター)した直後に、同司令部の指揮下にあり、少数民族武装諸組織(EAO)との和平交渉を国軍独自に行うために設置されていた「和平交渉委員会(PTC:Peace Talks Committee)」の再編を発表した。
 これまで政府の合同停戦監視委員会の委員長を兼務してきたPTCのヤー・ピェー委員長(陸軍中将:Lt-Gen Yar Pyae)は留任したが、従来4人いた委員(全員が中将)のうち1人が解任され、あらたに中将3人が委員に加わった。従って、PTCはヤー・ピェー委員長を含めた委員7人で構成されることになった。

硬軟織り交ぜた新戦略の可能性

 PTCは昨年11月8日に総選挙が実施された直後の同10日にその設置が国軍司令部から発表された。その際に発出された声明では、PTCの目的は、「全国規模停戦協定(NCA)」にすでに調印しているEAO10組織(「調印派」)との政治的な交渉をさらに進めるとともに、NCAに未だ調印していない10余りの「未調印派」EAOとも調印に向けた話し合いを積極的に促進していくとしていた。
 同声明に関連して、ゾー・ミン・トゥン国軍報道官(陸軍少将:Maj Gen Zaw Min Tun)は地元メディアに対して、政府が新型コロナウイルス対策に尽力している中で、もう一つの喫緊の課題はすべてのEAOとの早期の和平成就だと指摘した上で、「EAO側が望めば、PTCと(直接)交渉することも可能だ」として、政府のEAOとの交渉の中枢機関「連邦和平委員会(UPC:Union Peace Commission)」の頭越しに(文民政治家を交えずに)国軍とEAOが対話することの必要性を示唆していた。
 このPTC設置の時点で、総選挙の結果として、3月末に発足する「国民民主連盟(NLD)」主導の次期政権でも和平交渉の中枢機関として存続するUPCを無視して、国軍が独自に交渉チャンネルを作り、和平交渉を主導するとの意図が透けて見えていた。
 今回のPTC再編に当たっても、国軍が全EAOのNCAへの調印を目指す従来の和平プロセスを継続する意思を示唆してはいるが、一方で、「調印派」、「未調印派」に関わらず、国軍が軍事(掃討)作戦と対話との硬軟織り交ぜた新戦略の下で、直接各EAOと「話をつけた方が早い」との本音もうかがわれる。

「21世紀のパンロン会議」の行方

 いずれにせよ、今回のクーデターの結果としてUPCは解散し、PTCを和平交渉の中枢機関とするプロセスに転換するものとみられる。
アスン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が肝いりで推進してきたEAOとの全国民的な和平会議「21世紀のパンロン会議」(この名称が残るかも疑わしいが)が存続したとしても、出席者は新たに成立した暫定政権側の関係者と総入れ替えになることは必至で、会議自体は国軍主導のまったく本質が異なったものに変貌するだろう。


《タイ》

国家警察庁にサイバー犯罪捜査局(CCIB)が発足
―初代局長にコーンチャイ警察中将:有能な捜査官をリクルート中―

2020年10月13日

 タイ国家警察庁本庁内に新設されたサイバー犯罪捜査局(CCIB:Cyber Crime Investigation Bureau)の初代局長に10月1日付で就任したコーンチャイ・クライクルーン警察中将(Pol Lt Gen Kornchai Klaiklueng:前中央捜査局人身売買制圧部長)は10月12日、同庁内でCCIBの今後の活動について記者会見を開いた。

 CCIBは、今年7月の閣議で機関新設が了承されており、同庁所管の中央捜査局(CIB)、公安局(Special Branch)、入国管理局(IB)などと同格の新しい「局」となり、局長(commissioner)には警察中将が任命されることが決まっていた。
 コーンチャイ局長は記者会見で、CCIBは各部局から急遽異動になった警察官・職員合わせて333人で発足したが、人員ははるかに不足しており、現在民間も含めて有能な局員をリクルートしている段階であることを明らかにした(警察政策委員会の7月の決定では、同局は最終的に警察官・職員2,000人で構成されることになっている)。
 これら新任の捜査官は、10月中は最新のコンピューター・テクノロジーとあらゆる種類のサイバー犯罪について基本的な研修を受けるとともに、技術的に高度ではない事案について捜査を開始する。その後の3ヵ月間はサイバー捜査の技量を磨くためのより難度の高い事案も担当していく。
 CCIBがあらゆる種類のサイバー捜査を行えるだけの本格的な態勢が整った段階で、従来サイバー捜査を担当してきたCIB傘下のテクノロジー犯罪制圧部(TCSD)からすべての業務を引き継ぐことになるという。

海外のサイバー捜査機関のカウンターパート

 同局長によると、データのハッキングやオンライン詐欺など緊急の対応を擁する刑事事件で、全国の第1-9管区警察局が直接被害届を受理した場合については、各管区警察局や各県警察本部のサイバー捜査部署がCCIBからの指示を待たずに捜査し事件を解決することが可能である。ただ、地方警察が装備や技術面での支援が必要な事案については、CCIBが所轄部署から当該事案を引き継いで捜査することになる。
 コーンチャイ局長は、CCIBが今後1年以内に、インターネット上での名誉棄損や脅迫、フェイクニュース、オンライン賭博、違法取引などあらゆるサイバー犯罪に対応できる装備や要員を整備する方針を明らかにした。
 また、CCIBは、デジタル経済・社会省所管下にある、ホークス(偽情報)やフェイクニュースの監視機関(捜査権なし)が探知したケースの捜査と法執行を担うとともに、海外のサイバー捜査機関のカウンターパートとしての機能も果たすという。
 さらに、将来的には、東部・チョンブリー、東北部・コーンケーン、北部・チェンマイ、南部・スラッタニーなど主要な地方都市にCCIBの支局を設置することも検討している。


≪マレーシア≫

テロ対策部初の女性部長就任 ノルマ・イシャク副部長が昇格
―バイオテロの専門家:警察長官「厳格なプロフェッショナル」―

2020年2月18日

 マレーシア連邦警察公安局テロ対策部(機関コード名は「E8」)のアヨブ・カン・マイディン・ピッチャイ部長がジョホール州警察本部長に異動となる人事が2月6日付で発令されて以来、同国内外の関係当局やメディアが注目してきた後任人事について、アブドゥル・ハミド・バドル連邦警察長官は2月14日、同日付でノルマ・イシャク(Normah Ishak)副部長を昇格させる人事を発令したことを明らかにした。ノルマ氏は、同部で初めて女性のトップとなった。新旧部長の交代式は連邦警察本庁内で同日午前11時に行われ、ノルマ新部長が正式に就任した。

 ノルマ氏の詳しい経歴は、役職の性質上も公表されていないが、細菌兵器や生物化学兵器などを使うバイオテロ(bioterrorism)の専門家だとされる。連邦警察にキャリア官僚として入庁した1991年以来、一貫して公安局で勤務し、アヨブ・カン氏が96年にテロ対策部の部長に就任したのと同じ人事異動で同部の副部長に抜擢されている。海外の関連機関との連携などでアヨブ・カン前部長を補佐しており、昨年(2019年)2月には、国際テロ組織「アルカイダ」と連携してマレーシア国内を拠点に海外でのテロ計画を準備していた「ムスリム同胞団」メンバーのエジプト人5人に対する摘発作戦を陣頭指揮した。
 アブドゥル・ハミド長官は、ノルマ氏について、「(部長としての)資格は十分で経験も豊富だ。誠実な人柄を持つ厳格なプロフェッショナルで優秀な指揮官だ」と評価した。また、同部には各野で専門家の幹部が数十人おり、新部長の任務遂行を補佐する態勢が整っていることを強調した。 シリア国内のマレーシア人ISメンバーの帰国問題 同長官によると、ノルマ新部長が早急に取り組むべき課題のひとつは、イスラム過激組織「イスラム国(IS)」の活動に参加するためにシリアに渡航したものの、(ISの敗北と支配地域喪失に伴い)現在は難民キャンプなどに収容されているマレーシア人の元戦闘員とその家族計56人の本国送還問題である。 これらの元戦闘員らは、然るべき「脱過激化(deradicalization)」がなされなければ、マレーシア帰国後に新規のISメンバーをリクルートしたり、ISの思想を普及するなどの違法な活動を行う可能性がある。
 インドネシアの場合は、市民に対する世論調査で、シリア国内にいるインドネシア人のISメンバーや元戦闘員の帰国に反対する声が多く、対テロ当局も彼らを(最近の新型コロナウィルス感染の危機に準えて)国内での「テロのウィルス」になりうるとみなしている。 ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領を中心とする最近の関係閣僚・機関長の会合では、これらのISメンバーは「すでにインドネシア国籍を放棄した者たちである」として、(子供などはケース・バイ・ケースで判断するが)原則として帰国を受け入れないとの方針を固めたばかりである。
 マレーシアの対テロ当局はシリア国内のISメンバー・関係者の帰国に関してどのような対応をとるのか、テロ対策部のノルマ新部長にとっても難しい課題となっている。

以上


≪マレーシア≫

テロ対策部のアヨブ・カン部長が人事異動 テロ分子摘発に貢献

2020年2月10日

 マレーシア連邦警察公安局テロ対策部(機関コード名は「E8」)のトップとして過去4年間、イスラム過激組織「イスラム国(IS)」系の地元組織やテロ細胞のメンバー・支持者などの摘発・逮捕で陣頭指揮を執ってきたアヨブ・カン・マイディン・ピッチャイ(Datuk Ayob Khan Mydin Pitchay)同部部長(54歳)が(マレー半島最南端)ジョホール州の警察本部長に異動となる人事が2月6日付で発令された。人事の発効(正式就任)は3月6日付で階級もコミッショナー(police commissioner:本部長級)に昇進する。 テロ対策部は2013年以降、現在までにISメンバー・支持者を500人以上逮捕してきたが、その大半はアヨブ・カン部長が就任した2016年8月以降に執行されており、同部長は、マレーシアはもとより世界各国のテロ当局者からもその業績が高く評価されてきた。

 それだけに、今回の同部長の異動は、地元メディアはもとより海外メディアも東南アジアの国の一警察官僚の人事にしては大きな扱いで報じている。ジョホール州は、シンガポールに隣接する州都のジョホールバルがマレーシア第2の都市であり、同州本部長就任は明らかな栄転である。また、同州はマレーシアでは他州と比較しても犯罪発生率が高く、治安の悪い地域として知られており、アヨブ・カン新本部長には同州の治安改善に辣腕を振るって欲しいとの期待も込められた人事だといえる。 アヨブ・カン氏の異動については、半年ほど前から警察組織内では噂に上っていたが、同氏本人には事前に内示などはなく、具体的な異動先が知らされたのは、アブドゥル・ハミド・バドル(Abdul Hamid Bador)連邦警察長官が6日夜に長官室で同氏に直接辞令交付した時が初めてだという。
 アブドゥル・ハミド長官は7日、地元メディアに対して、「彼(アヨブ・カン氏)は(テロ分子摘発で)すばらしい仕事をした。今後は外(ジョホール州)に出て活躍する機会を与えることにした」と人事について説明した。同氏本人は警察人生の大半を公安警察畑一筋で来ただけに、州警察本部長就任について、「自分にとっては新しい任務だ。インシャラー(アラーの御心のままに)、自分の能力の全てを尽くして任務を遂行したい」と語っている。ところで、注目されるのは、同氏の後任の新テロ対策部長だが、7日現在、これに関する人事は発令されていない。

〔人物データ〕

■アヨブ・カン・マイディン・ピッチャイ Datuk Ayob Khan Mydin Pitchay
 マレーシア連邦警察公安局テロ対策部(E8)を過去4年間率いてきた。ISメンバー・支持者などテロ容疑者の捜査・摘発状況について報道陣に時々のブリーフィングを行い、国際的にも良く知られたテロ問題の専門家でもある。2016年の同部長就任直後から、インドネシアのIS系組織による暗殺テロ計画のターゲットになったほか、現在まで様々な殺害予告などの脅迫を受けてきた。そのため、周辺には常に厳重な警護態勢が敷かれている他、同じく警察高官である夫人や2人の娘とともに公共の場に出ることはめったにない。

▼1965年、北部・クダ州ペンダン(Pendang)郡生まれ。地元の大学から経営学士号と理学修士号(情報技術)を取得。1991年に連邦警察入庁後、同庁刑事局の刑事として勤務。94年同庁公安局(speciak branch)テロ対策室(現テロ対策部)に異動(以来、現在まで一貫して同局幹部として勤務)。2016年8月11日から公安局テロ対策部(E8)部長(-現在)。2020年3月6日にジョホール州警察本部長に就任(予定)。

以上